■出典
Robert Waldinger: What makes a good life? Lessons from the longest study on happiness | TED
(TED…各分野の専門家や著名人などによるスピーチを公開したもの)
■スピーカー
Robert Waldinger(ハーバード大学医学大学院・精神医学教授)
命題
本スピーチは一つの命題から始まります。
「私たちの人生を健康で幸せにするものとは何でしょうか」
ミレニアム世代(1980年代前半から1990年代半ばまでに生まれた人)を対象に、「最も重要な人生の目標」(複数回答可)を尋ねると、「富を蓄えること」「有名になること」が回答の多くを占めました。
ただ果たしてそれらがあれば、本当に幸せな人生を送れるのでしょうか。
目の前の選択が自分の未来の幸せに結びつくかはわからないし、はたまた人生が終わる時に、自分の過去のどの要素が人生を幸せにしたか/不幸せにしたかなんて、その記憶は改ざんされて正しくないか、或いはそもそも覚えていないものです。
つまり、人生を幸せにするものについて正確に知るのであれば、その人の生涯を客観的に観察する研究が必要なのです。
研究内容
ハーバード大学は1938年以来75年以上にわたり、724人の男性を観察し続け、仕事・家庭生活・健康について記録しました。
(この類の研究は被験者/研究者どちらかが脱落したり研究資金が不足したりすることで10年もしないで終わってしまうのが普通なので、75年続くのは本当に稀)
属性に偏りがないよう2グループに対して研究を実施。
①ハーバード大学2年生(ほとんどが後に出兵)
②ボストン貧困地域の少年(給湯設備さえない)
彼らに対して、詳細なインタビュー、医学的検査、血液検査、脳のスキャン等々の様々な調査研究が行われました。
幸せになるための3つの教訓
そうした彼らの人生から得た何万ページにもなる莫大な情報から分かったこと、それは…
「良好な人間関係こそが私たちに健康と幸せをもたらす」ということ。
“Good relationships keep us happier and healthier.”
富でも名声でもないのです。人間関係が良い人生を形作るのです。
そして研究を通して得られたこの人間関係についての3つの教訓が下記になります。
①社会的繋がりの大切さ
家族や友人、コミュニティとの強い繋がりは、健康で幸せな生活、そして長寿に繋がることが分かっています。
逆に孤独は、幸福度の低下や健康の悪化、早い老化や短い寿命に繋がります。
②関係性の質が重要
重要なのは、友達の数の多さや、付き合っている若しくは結婚している人がいることそれ自体ではなく、良好で密な関係性を有しているかです。
例えば、愛情がなく対立の多い結婚生活は、健康に悪影響を及ぼし、離婚よりも悪影響を及ぼす可能性さえあります。対立の多いパートナー関係にあった人々は、肉体的な痛みが増えた日には、精神的苦痛もさらに大きくなりました。一方で、幸せなパートナー関係にある 80 代の男女は、肉体的な痛みが増した日でも気分は幸せであったと報告しました。
また加齢についても、影響を及ぼすのはコレステロール値等の健康指標ではなく、どれほど自分の有する関係性に満足しているかということであることも分かっています。
③良好な関係は身体と脳にも影響を及ぼす
良好な関係は身体だけでなく脳をも守ってくれます。
80代になっても、いざというときに頼りにできる関係性を持つ人は、記憶がより長く鮮明に残るというのです。
良好な関係性構築のためにできること
良好な関係性を築くためにできることは無限にあるとしながらも、いくつかの方法が紹介されています。
・テレビやスマホ等に触れる時間を減らし、人との交流に時間を割く
・古くなった関係を再度活気づけるために、新たな活動を一緒にする
・長い散歩やデートの夜を共有する
・長らく連絡を取っていない家族とコミュニケーションを取る
最後に本スピーチは、マーク・トウェイン(小説家:代表作『トム・ソーヤーの冒険』)の引用で締めくくられます。
There isn’t time, so brief is life, for bickerings, apologies, heartburnings, callings to account. There is only time for loving, and but an instant, so to speak, for that.
Mark Twain
「かくも短き人生に、喧嘩したり、謝ったり、むしゃくしゃしたり、相手を責めたりするほどの時間はない。時間を割けるのは愛することだけだ。たとえ一瞬にすぎなくても、愛することに時間はある」
相手をリスペクトする、愛する、そうした気持ちこそが良好な関係性のために何より大切なのかもしれません。
筆者の感想
幸せをもたらすのは、お金や知名度なんかではなく良好な関係性とのこと。
その良好な関係性を生むのは、感謝であったり、日々の小さな心遣いかなと私は思います。
家族、友人、恋人、同僚。昔からの関係だったり、これから新しく生まれる関係。
様々な関係性がある中で、全部が全部丁寧にはできないけれど、少なくとも自分が大切にしたい人には、感謝を口にして一緒に過ごす時間を多く作っていければなと思いました。
そのことが自分だけでなく周囲のWell-Beingに繋がっていければそれほど嬉しいことはありません。